ようこそ記憶の箱庭へ

Introduction

きっかけは、スタッフから提出された
一つの企画書――。

その企画に込められた想いを受け取り、
小説として表現するのは、
人間の持つ感情を鮮明に描いてきた、
有丈ほえる。

「この星空には君が足りない!」では
熱い成長物語を描いた、
有丈ほえる×京都アニメーションが
次にお届けするのは――
正反対ともいえる、
“喪失と再出発”の物語。

――あなたにとって

一番大切な人は誰ですか?――

この秋、
悲しくも温かい感動の一作が誕生する。

Story

さぁ扉を選んで
空っぽの器に愛する記憶をつめこんで
虚ろな存在からもう一度
お兄さんになるために。

仕事帰りにスーパーへ寄って二人分の食料を買い込み、家に帰る。
二人分の料理を作り、テーブルにセッティングする。
しかし、向かい合う席には誰もいない。
黙々と一人で食事をする。

安曇野志温は、わかっていた。
自身が繰り返している行為が異常だということを。
しかし、どうしてもやめられなかったのだ。

誰かがお腹が空いたと
泣いてしまいそうで。

仕事もプライベートも順調なのに、何か大切なことが抜け落ちているような飢餓感に苛まれていた志温は、ある日の仕事からの帰り道で、人ではない――怪しげな男に声を掛けられる。

ずっと半身を失ったような
感傷に悩まされてきたんだろう?

志温の状態を言い当てた男は、
記憶を再構築する 薬を手渡す。
自身が抱える飢餓感を解消したい一心で薬をあおった志温が次に目覚めると、そこは白い海が広がる白亜の世界だった。

ようこそ記憶の箱庭へ

記憶がリセットされ、困惑する志温の前に現れたのは、案内人を名乗る少女・すずと3色の扉。

さぁ扉を選んで
空っぽの器に愛する記憶をつめこんで
虚ろな存在からもう一度
お兄さんになるために

こうして安曇野志温の記憶探しの旅が始まった。

Character

安曇野 志温あづみの しおん

会社員。
何か大切なことが抜け落ちているような飢餓感を抱えている。

すず

「記憶の箱庭」の案内人の少女。
志温の記憶探しの旅に同行する。

桜井 栞さくらい しおり

志温の恋人。
中学時代からの付き合い。

藤沢 海人ふじさわ かいと

志温の親友で、良き相談相手。

Keyword

テセウスの船

思考実験の一つ。
例えば、船の部品を全て入れ替えた場合にその船は同じ船だと言えるのか、という「同一性」を問うもの。

記憶の箱庭

青、黄、赤の3つの扉がある。
「記憶の箱庭」を訪れた人間は記憶をリセットされた状態で、映画のように過去の出来事を鑑賞し、記憶を再構築していく。
鑑賞するだけで介入することはできない。
辛いことだけを忘れ、楽しいことだけを留めておくこともできるが……。